平成24年の学術集会のプログラムより抜粋

国際個別化医療学会の幕開け

                              藤沼 秀光(Hidemitsu FUJINUMA)

                                  藤沼医院院長

              Director of Fujinuma Clinic

この度私は第14回国際個別化医療学会の会頭を仰せつかりました。その経緯は阿部理事長の「ときにはこの会も都心から離れて、緑豊かな郊外で開催してはどうか」という一言に端を発し、栃木県で開業している私がその道案内人をさせていただくことになったわけです。

当学会は国際統合医学会として13回の会を重ねてまいりました。その間、阿部理事長の理念であります「個々人に最適な医療」を西洋と東洋の融合、伝統と先端医療の融和、精神と肉体の統合を包含したホリスティックなアプローチで追求してきたものと感じています。

 奇しくも本年5月に英文の当学会誌「Personalized Medicine Universe」がエルゼビア社から創刊されますが、その理念を強く打ち出した国際個別化医療学会への改称は当学会のアセンションの証であると言えるでしょう。

今回は「生老病死とパーソナライズド・メディシン」いうメインテーマで開かれます。

生老病死とは仏教用語で人としてまぬがれられない根本的な四つの苦しみ、すなわち生まれること、年をとること、病気をすること、死ぬことの四苦を指すとあります。四苦に加え、愛別離苦(あいべつりく、 愛する者と別離する苦しみ)、 怨憎会苦(おんぞうえく、怨み憎んでいる者に会う苦しみ)、 求不得苦(ぐふとくく、求める物が得られない苦しみ)、 五蘊盛苦(ごうんじょうく、あらゆる精神的な苦しみ)の四つを合わせて八苦と呼びます。

医療はこの八苦のうちの四苦である生老病死に直接かかわりをもち、その苦しみを癒すことが本来の使命でありますが、もとより生老病死は個々人の人生の軌道のうえでは不可避であり、またそれは自然の摂理でもあるのです。

生に関わる産科・新生児医療の進歩は目ざましく、2010年わが国の周産期死亡率は1000人出産あたり3人と世界のトップクラスです。反面、極端な早産の場合、回復の見込みのない延命治療をどこまで続けるかが医療者、家族を悩ませ、2005年のNEJMにはオランダのフローニンゲン・プロトコール(重症新生児の安楽死)が取り上げられました。終末医療における生命維持装置の問題もしかり、生死を人為的に決定することが道徳的に正しいことなのか否か議論が尽きることはないでしょう。このことは見方を拡大すると、高度生命科学により、もし人間の寿命を大幅に延ばすことができるとしたら、これは果たして自然の摂理に適うことなのかという命題にも繋がることでしょう。

これは医療がまだ未発達で、最大限の医療技術が要求され、施されても生命をコントロールできなかった時代にはおよそ想像できなかった苦悩であります。生命科学と医療技術の発達が皮肉にも新たな五蘊盛苦を生み出してしまったともいえるでしょう。

 ここに至り現代の医療技術の進歩を一律に個人に適用することはもはや時代にそぐわないのではないでしょうか。個々人の全人的でその霊性にまで踏み込んだ「パーソナライズド・メディシン」こそが、先端医療の為されるべき海図とその羅針盤になり、高度先進医療の授受の矛盾を解消する鍵となるものと信じます。

 今回は順天堂大学の白澤卓二先生に長寿バイオマーカーとアンチエイジングについて、長崎大学の上平憲先生には個別化医療を支える臨床検査についてご講演いただきます。本学会のメインテーマを深く掘り下げ、今後の指針としていただけるものと確信しております。

会場となるホテルエピナール那須は、御用邸を戴く雄大な那須連山の麓に広がる温泉郷と別荘地を主体とした高原ロイヤルリゾートに立地し、茶臼岳を主峰とした景観は四季折々の表情を見せてくれます。温泉神社後方にある白面金毛九尾の狐と殺生石の伝説は私たちを鳥羽上皇の時代にタイムスリップさせながら、モダンな佇まいの美術館やカフェ、レストラン、ゴルフ場などとも調和しています。2001年世界建築大賞受賞作品となった石の美術館は、かの隈研吾氏の設計です。愛子内親王に因んだ宮内庁御用達の地ビール「愛」を心に注ぎながら、皇太子様行啓のレストランでフレンチにひたってみてはいかがでしょうか。

専門性や分野にとらわれず、広く「個々人の健康・個別医療」を目指すために参集される皆様が、那須の大自然に癒されながら人間とはなにか、真の健康とはなにかを希求できる会になりますことを心より祈念いたします。

www.is-im.org

 

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